と、心の中で毒づいたが、頭をよぎったのは自動車の教習所で習った、踏切で脱輪したときの列車の緊急停止の方法。
確か教官は、発炎筒も何もないときには、何でもいいから列車に向けて青色以外の物を振り回せ、と言っていた。
私は着ていたスーツの上着を脱いで、列車に向けて振り回した。急ブレーキと警笛がトンネルに反響する。(物凄い音だった)やがて列車は減速し、痴漢と私のほんの3メートルぐらい手前で停止した。
しかし、まだ問題が解決したわけではない。
まだ、全ての元凶がホームの下にいる。
さて、どうしたものか。
痴漢は何が起きたのかわからない様子で、線路からホームを見上げていたが、私が手を伸ばすと、意外にも私の手を掴んできた。
ははん。こいつ、私のことを追っ手だと思っていないわけだ。
私は、痴漢をホームに引っ張り上げると、痴漢が体勢を立て直す前に、柔道の固め技をかけてやった。
(正直、中学生の頃の体育の授業が、こんなところで役に立つとは思わなかった)
程なく駅員が駆けつけ、痴漢は御用となった。
事件の後、警察へ行って名前や住所を控えられましたが、表彰などは何もなかったです。
「痴漢を捕まえて表彰」という話は、たまに新聞やニュースで取り上げられますが、よく
よく考えれば、痴漢事件など毎日数限りなく起きているわけで、よほどのことがない限り
は表彰などないのでしょう。
ただ、表彰はありませんでしたが、小遣いは貰えました。この件のせいで遅れると会社に
電話を入れたところ、直行の出張という扱いになり、出張旅費が出たのです。昼食がちょっ
と豪華になりましたね。