「心当たりはない。それはストーカー。すぐに警察に。今向かう」
とのこと。
内心、やっちまったと思ったが、とりあえず冷静にと思った。
言いたいことはわかった。
弟に連絡を取ると席を離れようとした瞬間、背筋が凍って無意識に飛びのいた。
後から人間の反射神経というか危険察知能力ってすげーと思ったけど、体すれすれのところを包丁がぶんって音を立てるくらいの勢いで振り下ろされた。
彼女の言葉はもう金切り声で聞き取れないが、実姉である私がシねば弟くんが来てくれるとかなんとか。
相手は妊婦なんて言ってられないから、椅子を蹴飛ばしてぶつけるとボコンとお腹がへこんだ。
妊娠ってのは嘘。お腹に布で包んだプラスチックのでかい料理とかのボール入れてた。
気づかんよ、そんなの。
必死に逃げながら外に出ると、弟が連絡したらしいお巡りさんが見えて助けてって叫びながら走った。
すぐにお巡りさんが取り押さえてくれ、弟が駆けつけてきたが姿を見ると余計に興奮するから彼女から見えないところで事情説明。
ご近所さんたちは何事!?って出てくるし……。
もう二度とあんな思いしたくない。
あの焦点の合わない目と張り付いた笑顔と包丁がぶんぶん言う音は未だに夢にみる。
なんとか最近包丁を持って料理できるようにはなった。
ちなみに彼女がなんで実姉である私のことを知ったかと言うと、興信所に調べさせたって。
もうなんてことするんだと思った。