俺がガキの頃、うちの親父は
「ちょっとここ押して」
と頭を指さし、押してもらうと同時にブッと屁をこくという技を得意としていた。
たいがいの場面でウケた。
うちのアホな俺&弟妹などはそのたび大喜びだった。
親父はなぜか自由自在に屁が出せる男で、アホな俺はそんな父を本気でスゲエと思っていた。
ある年、俺たちはお彼岸に仏壇のある本家へ行った。
母は用事があってなんでか行かなかった。
本家には何家族かすでに集まっていて、なぜか雰囲気がトゲトゲしていた。
でも食事が始まると酒も入ってなごやかになり、いつもの空気になった。
奥では本家の長男と嫁さんが相変わらず暗い雰囲気だったが、俺たちは下座にいたのであまり関係なかった。
そのうち、いとこたちが親父のまわりに集まって
「あれやって、あれやって!」
とせがみだした。
そう、例の必殺技だ。
いとこたちの中には本家長男夫婦の子も混ざっていた。
ほろ酔いの親父はこころよく
「はいここ押して」ムギュ「ブッ!」と豪快に屁をぶっぱなした。
アホどもは大爆笑だった。
そこで本家の長男嫁さんが子供を探しに来たので、調子こいた親父
「アキコさんちょっとここ押して」
アキコさん「はい」ムギュ
「ブッ!!」
もう爆笑につぐ爆笑だった。
アキコさんも爆笑していた。
そしてアキコさんは
「あー笑った笑った」
みたいに涙を拭いて、子供の手をひいて座敷を出て行った。
それっきりアキコさんは戻ってこなかった。
あとで知った話だが…