林を抜けるのに結構長くて30秒くらいかかった。運転手はあれきり無言のまま。
いつまでこうしてなきゃならないんだろうと思いながらも喋りかけ辛くてしゃがんでいた。
ふっと嫌な想像が頭を掠めた。このままさらっていく気じゃないだろうな。こっそり外を見ようか。そろそろっと頭を上げ始めた時、運転手が言った。
「着いたよ」
外を見るとそこは確かにネカフェの前だった。
「ありがとうございます」
メーターは回ってなかった。運転手は初乗り料金を告げ俺は払った。
このまま降りようかと思ったがやっぱり気になってなぜしゃがませたのか、そもそも最初の合図は何だったのかを訊いた。
「いたんだよ、あそこに」
「え、どこですか?」
「林を通っただろ?あそこな、時々おかしな奴らが待ち伏せしてるんだよ」
「待ち伏せ……」
「通りかかった奴を殴ってボコボコにして身ぐるみはいで襲って、もう何人も被害に遭ってる。男も女も」
「ええ?!何ですか、それ。警察は?」
「捜査してるはずだが、一向に捕まらない。暗くて目撃者もいないせいか、他に何かあるのか。何にせよ地元の人間は夜は決して徒歩や自転車で通ったりしない」
「とにかくそれで合図を?」
「もう林まで近かったから、あからさまに停まったらバレる。獲物を奪ったと追っかけてこられたら面倒だからな」
「しゃがんだのも僕を乗せてることを隠すためだったんですね」
「ああ。じゃもう帰るから」
「あっ、最後に一つだけ。なぜ今夜いると判ったんですか?」
「血がね。ライトで見えたんだ。まだ乾いてなかった」
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