祖父母に育てられずっと心に重しを持ったわたしは、周りを観察し察する能力が優れていました。
その能力を使う…までもなく、彼女がわたしを捨てた事情や理由は察しがつきました。
いえ、察するまでもありませんでした。
この女、何も考えてない。
キッチンに立つ縮れ頭のケバいおばさんの後ろ姿を見ながら、どうやってこの時間を乗りきるか、それしか考えれませんでした。
しかし、縮れ頭は口を開きました。
それはまた、新たな修羅場の始まりでした。
「あんた、おっきくなったねー」
「…はい」
「えー暗いじゃーんww田舎で育ったからー?wwwww」
「…どうでしょうか」
「昔は活発だったのにねーwww」
「そうですか…」
「あの頃はわたしも大変だったからさー、悪かったと思っているのよー」
「…」
わたしが黙っていると、縮れ頭は一人語りを始めました。
失踪当時、父は仕事で海に出てばかり。
守秘義務やら職務上の決まりで、陸上とは一切連絡禁止。
縮れ頭は地元から遠く離れた地で一人ぼっちだった、と。
「あんたを産んだ日は雪がすごくてさー。うちの親が来てくれる予定が新幹線止まっちゃってwwだーれも来てくれない中、一人で産んだのよー」
わたしを産んで2年後、弟を妊娠。
しかし父は相変わらずいない。
わたしが産まれて一人ではなくなったけれど、あくまで手のかかる幼児。
寂しさを埋める役には立たない。
弟を出産。
子供は二人になったが、やはり寂しさは埋まらない。
そんなときに出会った男性と浮気、そして不倫逃避行。
しかし離れてみて、子供がいない寂しさに気付いた。
そして、弟を取り戻しに行った。
そう語る縮れ頭に、ふと聞いてみたくなりました。
「どうしてわたしじゃなくて、弟だったの?」
縮れ頭はキョトンとしたあと、ケラケラ笑いながら答えました。
「だってあんた、男じゃないから跡取りになれないじゃんwだからいらなかったのよwww」
男じゃないから、“いらなかった”。
10年ぶりに言われた、“いらない”との言葉。
嘘でそんなことを言う必要はありません。
つまりそれがこの女の本心です。
本心から、わたしを“いらない”と思っているのです。
それから後のことは、またもや記憶がありません。
15歳という年齢や出来事の大きさを考えると成長と共に記憶が風化することはなさそうなので、ショック過ぎて思い出すことが出来ないのでしょう。
28歳になった今も、「いらなかった」と言われた以降のことは
思い出すことは出来ません。