乗客の波が改札口に消えると、電車の中にはおばさんが一人ポツン。
私達は相変わらずホームで一列に並んだまま動かない。
異変に気付いたおばさんがキョロキョロし始めた時、発車のベルが鳴って扉が閉まった。
座席から慌てて立ち上がり、両手で扉をドンドンするおばさんを乗せて、その『回送電車』は車庫に帰って行った。
普段は発車する前に車掌が車内を点検するんだけど、なぜかこの時はホームにアナウンスが流れただけだった。
乗客が降りてから回送電車が発車するまでの1~2分。
列に並んだ全員が暗黙のうちに一致団結。
誰一人それが回送電車であることを教えようとせず、ただおばさんを見守っていたあの時間は新鮮だった。