最初に備品の全滅に気付いてから2ヶ月くらいしたころ、奴のテーブルが妙に騒がしくなった。
お水のおかわりを注ぐという口実でそこに近づくと、
「みっともないからやめて」だの
「これはサービスなのよ」
だの話し合っていた。(奴の方だけ見れば「怒鳴っていた」というのが正しいと思う)
ちょくちょく耳に聞こえてくる会話は「キチママ」そのもので、こんな人実在するんだと妙に他人事に感心していた。
結局そいつは喧嘩別れする形で店から出て行った。
支払いは残りの2人が奴の分も含めて払ってくれたんだけど、レジ打ちの子の横から店長がクーポン(たいしたものじゃない) を渡しながら
「またぜひおふたりで(ちゃんと聞き取れなかったけど多分合ってると思う)お越しください」
と言っていた。
その後店長に聞いたら、こうやって喧嘩になることを俺が相談する前に予測していたと言われて驚いた。
「お前が気付けるような客席のトラブルに俺が気付けないはずないだろ」
とも。
おれが指摘するよりも前に、試しにシュティックシュガーをカバンに詰めてる奴に視線を送ったところ、本人は気付かないのに他の2人が視界の端で居心地悪そうにしてて、それで今の結末まで予測したんだとか。
「別にあんな奴放り出したり出禁にするのは簡単だけどよ、そしたら残りの2人まで気まずくなっていらっしゃらなくなるだろ?」
と言われて本当に店長の観察眼に驚いた、という武勇伝。
ちなみに店長は、制服着てなければヤクザか軍人かという見た目なので、物理的に「放り出す」のも確かに簡単なのだろうと思う。
でも、それにもかかわらずよくお客の心理を見れていることはすごいと思った。