誰もいないのに中に上がり込み、奥の部屋へと進もうとしている男の後ろ姿だった。
男は奥のドアへと近づいている。そこからはテレビの音。母の笑い声が聞こえる。
パニクった私が思いっきり「何かご用ですか!?」と叫んだら、男はビクッ!ってなって慌ててこっちへ向かってきた!
やべぇ何かされる?!と思ったが、予想外に横をすり抜け、外へ飛び出しただけだった。
そして非常に慌てながらカタコトの日本語で
「クルマ、ソト、ホシイ」等の単語をペラペラ。この時点で私の恐怖心はMax、相手が何をしたいのか何を言ってるのか理解できず、思わず奥でまだゲラゲラ笑ってる母を大声で呼んだ。
のんきに出てきた母、怯える私に気が付かず来客の用件を聞き始める。
冷静にもう一度男の話を推測すると、どうやらうちの庭に停めてある故障した車が欲しい、ということだとわかった。
この車、何年か前に事故ってボコボコになって以来処分をめんどくさがって敷地内に放置してあったもの。
男の祖国で高く売れるので譲って欲しい。お金も出す。と、何度も繰り返す男。
結局母は「あれはうちの車じゃないからダメ!」とよく分からない断り方をして男を帰らせたが、見ず知らずの中東系外国人が自宅の和室をこそこそと歩く姿を目撃した瞬間はとてつもない衝撃だった。
母はそのシーンを見てないし、出てきたときに男は既に玄関の外だったのでのんきなもんだったが、勝手に家に上がり込み母のいる部屋に近づいていたことを話すと流石に怯えていた。あの時、私がいなかったらどうなっていたかと思うとちょっと怖い。