新婦は、当時私が勤めていた会社の同期だったが、
入社以来本社に勤務していたエリート。
私はといえば、地方の拠点だけを転々と勤務。
身分も任地も全く違うので、新人研修以来交流らしい交流は無かった。
その新婦から「披露宴で急に空席が出来たから出席してほしい」と
電話があったのは、式の10日前だった。
何でも新婦が懇意にしている芸術家グループが急なスケジュール変更で出席できなくなり、
テーブル一つがまるまる空いて様にならないとのこと。
当時の私の任地は、新幹線の最寄り駅まで高速バスで3時間近くかかる、僻地とも言うべき田舎だが、
それなりに仕事はちゃんとある。
当日はその仕事が山場を迎える忙しい時期だったので、
日程が急なこと、仕事で外せないことを伝えてその場でお断りした。
するとすぐに、新婦の上司で仲人でもある社の幹部から電話が。
曰く「同期と言えば兄弟同然。その同期の窮地を見捨てるのか」
「そもそも君の任地でそんなに仕事が忙しい訳がない」
「仕事の整理をきちんとする能力があれば時間は作れるはず。
その能力も無い人間に社での居場所は無い」
「私がここまで言っているのに断る気か」
この上司はややこしいことで有名な「実力者」だったので、出席することにした。
招待状を贈る余裕も無いと新婦が言うので、
当日受け付けできちんと対応してもらうことも念押しした。
田舎での直属上司に、事情を伝えたうえで休みを申請したが、案の定
「お前がしっかりしてないからだ。断れ」と一喝された。
それでも、仲人のややこしさを強調し
「あなたにもとばっちりがありますよ」と半ば脅して食い下がると、
嫌々1日だけ休みをくれた。
その田舎から当日出で、東京で午前11時に始まる披露宴に間に合うには(車で2時間かかる空港から)
朝一番の飛行機で羽田に出るしかないが便は満席。
やむを得ず前日の最終新幹線で東京に出て前泊した。
そんな万障繰り合わせて赴いた披露宴当日。
受付の子に代役で来たこと、新婦の都合で招待状を貰っていないことを伝えたが…