どこでもドアが欲しかった

両親が離婚し、兄と私は別々に引き取られることに。ある日、母に会いたくなった私は…

time 2016/11/24

両親が離婚し、兄と私は別々に引き取られることに。ある日、母に会いたくなった私は…

兄が声も出さずに泣いてた。
そんなふうに兄が泣くのは初めてだったからビックリして涙が止まった。
学校じゃ気が付かなかったけど、兄も色々辛かったのかなと思った。

ずいぶん経ってから父が迎えにきたんだけど、その時兄が
「僕も一緒に帰りたい」って。
私が「おばあちゃん怖いよ?」って言ったら、それでも一緒に帰りたいって言って、
その後どういう話し合いがあったのか分からないけど、兄も一緒に暮らすようになった。

父の実家に戻ったとき、祖母が私の顔中を撫でまわして泣きながら謝った。
祖母が言うには、嫁の実家に対して変な競争心を持ってたらしい。
孫を立派に育てなきゃならん!みたいな。
と言うのも、元々両親の結婚には母方の親からは大反対されたらしいんだね。
父は母子家庭だったから。
結婚する時も結婚したあとも、母の両親からは小馬鹿にされるような蔑まれるような
発言が幾度となくあったらしく、離婚するって聞いた時、絶対この子を立派に育てる!って思うあまり
孫の気持ちを考えてなかったと反省したようだ。
(この辺りの細かい心情は、後に高校生になった頃に聞いた)

祖母も何か吹っ切れたらしく、兄妹も揃って賑やかになって
父は相変わらず忙しかったけど、休みの日には今まで以上にたくさん遊んでくれて兄も明るくなった。
色々あったけど、平和な生活になった。

それから何十年も経って、私も兄も結婚して子供もいる。
不惑の年はとうに過ぎた。
祖母も父も亡くなった。
父は結局再婚はしなかった。

一昨年の事。
兄の家に一目で姉妹と分かる女性がふたり訪ねてきた。
自分たちはあなたの妹です、と言ったらしい。
母と再婚相手との間に生まれた私たちにとっての種違いの妹ということ。
そして生活を援助してくれと言うのが用件。
母の再婚相手は、別の女性と姿をくらましたそうだ。
母と娘ふたり、母の両親の財産を食いつぶしながら生活していたけどそれも底を尽きかけてる。
だからふたりで少しずつでもいいから面倒見ろということだ。
あなたたちは私たちと同じ母の子供なんだから、母の面倒を見る義務があると。
とりあえず、二人でそれぞれ月々5万ずつどうにかしてほしいと。

兄は、私のところに訪ねて行ったらぶっ頃すぐらいのことを言ったようだ。
妹(私)に対して、母は「要らない子」と言った。
母親に会いたくてひとりで訪ねて来た小さい娘に「要らない」と言った女が母親ヅラして
金を出せと言うならその前に、妹をここに呼ぶから
母も這ってでもここに来て母親として土下座して謝れ、話はそれからじゃないかと言ったそうだ。

後に兄嫁に聞いたら、今まで見たこともない恐ろしい様子だったらしくて
兄にそんな一面があったなんてビックリしたと言っていた。
その兄の剣幕にビックリして震えながら帰ったそうだけど、その後一度も連絡を取ってくることはなかったが
今年の始めに、その母が他界したと連絡を寄越してきた。
兄が喪主になって葬儀を出せと姉妹の姉の方が言ってきた。
喪主になると言うことは、遺産相続に口を出すことになるがそれでもいいのかと言い返したら音信不通になった。
最初に訪ねて来た時に、兄は後々の為にと母の資産状況は調べたらしい。
生活には確かに困っていたが、住んでる土地建物は残っていたらしい。
結局葬儀をしたのかどうかも分からないまま。
冷たいようだけど、兄にも私にも母はもう赤の他人だった。
妹と言われても全く実感がない。
もちろん妹に対しては何の恨みもないけど、
頼ってくるようなことはやめてくれと思ってしまう。

少し前に、兄とふたりで父の墓参りをしたあと飲みに行ったんだけど
その時にずっと聞けなかったことを聞いてみた。
母に引き取られていた間、どんな暮らしだったのか。

母と祖父母は一日中喧嘩ばかりしてたそうだ。
母は今で言うネグレクト状態で、祖父母は兄を厄介者という扱いだったらしい。
反対したのに勝手に結婚して勝手に離婚して勝手に孫なんか連れて戻って来てって。
離婚する前は、母方の実家に帰省すれば孫として可愛がってくれてたのに
まるで別人のようだったそうだ。
だからどこにも居場所がなくて、父に引き取られた私が羨ましかったって。
ああ、あの時の兄の涙にはそんな思いがあったのか。
母にとって父ってどういう存在だったんだろう。
親の反対を押し切ってまで結婚したのに、その父との間に生まれた子供を
どうしてそこまで疎むことができたのか。
父は夫としてはダメ人間だったんだろうか。
でも私たちにとっては父は穏やかで頼りがいのある父だった。
だからと言って、母が生きてるうちに聞いておきたかったとも思わない。

自分の子供たちには絶対こんな思いはさせたくないと改めてそう思った。

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