サレ夫は産業機器の開発者。
人員削減のあおりを受け、2年前からサポートにも狩り出されるようになり、納入先への長期出張のほか、休日にも急な出張が入るようになった。
ふと気付くと、夫婦の会話がごく事務的になっていること、夜の生活もいつからご無沙汰になっているのか思い出せないほどになっていた。
忙しくて夫婦の時間がとれず、思った以上に関係が悪化しているようだ。
以前は仕事を家庭に持ち込まない主義のサレ夫だったが、少しでも家庭にいる時間をとるため、簡単な報告書程度であれば持ち帰り、自宅で済ますことが多くなっていった。
あるとき、短い期間で家に戻れるよう、出張での業務を効率化したいと考えたサレ夫は、プリントアウトした客先担当者とのメール、スケジュールで埋め尽くされた手帳、作業日記として使っている大学ノートを用意し、ここ1年分の出張の記録を見直しはじめた。
でも、日頃の疲れが溜まっていたせいか、資料を広げたまま寝込んでしまった。
ふと、体に重さを感じ目を覚ますと、嫁がサレ夫に抱きつきながら号泣していた。
手帳を目で示しながら、声にならない声で
「今まで誤解していた」
「ごめんなさい」
と繰り返していた。
ひどく取り乱した様子の嫁の姿に、俺の苦労を理解してくれたという安堵感と、これほどまでに追い込んでしまっていたのかという罪悪感から、、嫁に精一杯優しい言葉をかけ寝かしつけた。
そして翌日昼近くに起きると、朝食の用意がしてあるものの、嫁の姿が無い。
まあ、コンビニでも行ったんだろうと気にせずにいたら…