『私さんが歩いて近くの民家から人を呼んできたらいいんじゃない?』
と言った。
あまりにも普段通りのおっとりとした口調で自然に聞こえたので、一瞬
『ナイスアイディア!』
て言いそうになった。
完全に日が落ちて暗闇の土地勘のない山道を歩いて行けるはずがなかろうに、こちらが絶句していると
『そうよね、私さんが一番若いからこれは私さんしかできないわ』
とAママも賛同した。
二人とも真顔でこっちを見てる。
本気で言ってるのがオカルトチックで言葉がでない。
けど、ずっと
『私さん、はやく行ってきて』
『お腹空いた』
『子供達が可哀想』
と二人がかりで追い詰めてくる。
突然前方が明るくなった、と思ったら地元の人らしいおじさん軽トラが通りかかった。
必死で事情を話して旅館まで荷台に乗せてもらった。
旅館まで500mくらいだった。
おじさんがきた瞬間からA,Bママは普段通りに戻ったけど、とても温泉を楽しめる気分ではなかったので私親子は近くに住んでいる知人に無理を言って深夜に迎えにきてもらった。
その場で二人とはCO宣言した。
『冗談だったのに・・』
なんて言ってたけど、あの時私を強引に車外に押し出そうとして、シートを掴んだ私の指をあらぬ方向に曲げてきたのは、とても冗談で出せる力ではなかった。