刀でGのズボンのベルトを切り落とし、股の竿と右耳を切り落として
「次、悪さした話を聞いたら命は無いと思え!」
と言い組長に頭を下げて出て行ったらしい。
実際にGの右耳は無かった。
それが刀で切り落とされた物だと知って恐怖以外の何者でもないし
話を聞きながら足が震えてたよ。
温厚でやさしいAさんが刀で人を切った事が有ることにもビビってた。
今考えると戦争の生き残りなんだから何の事も無いんだろうけどね。
そして今、Aさんが亡くなった。
Aさんが居なくなっただけで悪さを再開するGには恐怖というより呆れてた。
Aさん、生前は本当に近所の人にGが悪さをしてないか聞いてたらしい。
推測だけど、これはGを抑えるためにわざとGの耳に入る様に
近所に定期的に聞いてたんだと思う。
Aさんが亡くなった後、今までの鬱憤を晴らすようにGはA家に執拗に絡んだらしい。
Aさんの奥さんはあの婚約者だったから余計に拍車をかけたんだと思う。
一家揃って嫌がらせを始めた。
朝早くにAさんの家の前にゴミか何かを撒いてるのは俺も目撃した。
「Aはもうこの世に居ねえ、怖いもんは無え」
と近所の人にも言って回ったらしい。
Aさんはものすごい人望のあった人だから、A家の周囲の人も心配して警察や
土地の有力者に口を聞いてやる話も沢山出たけど、A家の奥さんや息子も
元武家のプライドが有るのか、Aさんの意思を尊重してたのか判らないけど
「まだ喪が明けてませんから」ですべて断っていたみたい。
それでも近所の人やAさんの生前に世話になった人がA家を護るためにゴミの
片付けや家の塀の修繕、夜は自警団の様な感じで見回りまでしてた。
そしてAさんの葬式から2ヶ月ぐらい経つか経たないかぐらいの時期だったと思う。
GとG息子が突然変死したんだ。
オフィシャルには変死だけどそこは田舎、本当の死因は他殺だったらしい。
当然村の大人たちは誰が犯人かは予測が付いてたと思う。
犯行現場周辺での目撃談も有ったしね。
でも誰も直ぐに何も言わなくなった。
そしてみんな「Aさんとの約束を破ってAさんに連れて行かれたんだろう」と言う
話しかしなくなった。
近い駐在所のおまわりさんですら変死で処理してたんだと思う。
G一家は騒いでたが誰も相手にしてなかった。
新聞は読んでなかったけどニュースや大きな騒ぎにはなってなかった。
家の婆ちゃんが「49日があけるまで待ってたんだろうね」
とぼそっと言ってた意味を理解したのは大人になってからだったけどね。
その後は男手が足りなくなって収入が減ったのか、俺が中学生になる頃にはその家は
空き家になってた。