数年前、気が付けば俺は結婚してた。
この気が付けばってのは、冗談でもなんでもない。
ホントに気が付いたら結婚してたんだよ。
当時俺は21歳の会社勤め。
高校卒業して就職、地元の小さな企業に勤めてアパートで一人暮らしをしてたんだが、ある日実家に帰ると、家の中には見たことない女性が座ってた。
誰だろ、綺麗な人だなってのが、俺の最初の感想だった。
俺は父に、この人誰って聞いた。
そしたら父はかなり驚いていた。
『お前何言ってるんだ?』って言われてた。
そしたら、その女が笑顔で言ってきた。
『お帰りなさい、俺さん』って。
何で俺の名前知ってるのか聞いてみたら、その女は笑いながら言ってきた。
『何でって、だって私は俺さんの妻でしょ?』
この女は何を言ってるのかと思った。
その時、それはドッキリか何かかと思ったし、家の中を見渡してみた。
だって、そん時の俺は彼女すらいなかったし、当然結婚なんてしたこともない。
おまけにアパートで一人暮らしだったから、そもそも結婚していたとしても家には誰もいない。
何かの冗談かと思った。
でも、両親とその女は至って真面目に、というより、極自然に家族として成り立ってた。
俺は立ったまま固まって家の中の景色を茫然と見てたんだけど、まるで長い付き合いかのようにテレビを見ながら母と話してたし、父に茶も入れてた。
むしろいつまで経っても座らない俺に女不思議そうな顔を見せて、『座らないの?』って聞いてきた。
そっから我に返って、一気にファビョッた。
『その女は誰だ』『なんで俺の実家にいるんだよ』『てか妻ってなんだよ』って一気にまくしたてた。
でも、両親もその女もキョトンとしてた。
最初は笑っていた両親も、本格的に騒ぐ俺を見て異常さを覚えたみたいだった。
体を押さえられて『落ち着け』って何度も言われた。
それには、その女も加わってた。
『私が分からないの!?』ってずっと言ってた。
何度も言うが、俺は結婚なんてしていない、した記憶なんてない。
高校卒業からそれまで、ずっと一人暮らし働いてて、たまに実家に帰るくらいだった。
友達と飲みに行くことはあっても、女と飲みに行ったことはない。
なのに、両親もその女も、その女が俺の妻とか言ってる。
意味が分からなかった。
自分の記憶を疑ってみたが、やっぱりその女なんて知らない。
両親の顔を改めて見たけど、やっぱり俺の両親だった。
しばらく騒いだところで、一度座って話すことになった。
父は、改めて俺に『Aさん(その女、仮名)を覚えていないのか?』と聞いてきた。
俺は当然『それ以前に知らない』と断言した。
そしたら、Aは泣き始めた。
おまけに母まで泣き始めた。
父は、すんげえ難しそうな顔をしてた。
なんか俺一人悪者になった気分だった。
すると…