一気に酔いが覚める。
酔った上での構想では、連中を挑発し、
悪化させるだけのアドバイスを行う
アトピー経験者が絡んできたら逆にこっちが説教かましてやるつもりだったのだ。
湿疹男のほうが怒り出して当然であった。彼に殴られるかと思ったが……。
「だから言っただろ、周りの迷惑だって!」
湿疹男は財布から札を取り出し経験者の顔に叩きつけ店を出て行った。
俺達ではなく経験者への怒りが爆発した模様。
呆然としてる経験者を尻目に俺達も会計済ませて店を出る。
怒り収まらずのしのし歩いてゆく彼を呼び止め、酷いことを言ったことを謝ってから
俺の腕に残るシミを見せた。
俺自身かつてはアトピーで、似たような経験者が語る苦行系の
無茶苦茶なアドバイスを間に受けどんどん悪化させた経験があるため
放っては置けなかったのだ。
湿疹男の言うとおり迷惑と感じる人が周囲にいて、
本人も気を使ってしまうことを知らしめてやれば、経験者も少しは考えが変わると思ったのだ。
湿疹男は既にいろんな治療法を試し、ことごとく効果がなかったようだが、
駄目でもともとという覚悟で治療法を聞いてきた。
そこで俺は、人のいるところは辛いだろうからと
自販機コーナーへ行きペットボトルの茶をおごった。
経験者が追ってきたら面倒なことになりそうだったし、
俺の経験上、酒やつまみになる食い物はアトピーによくない場合が多い。
アトピーの人間を酒の席に引っ張り出して説教するなどとんでもない話である。
ペットボトル片手に、経験者が人格批判とともに語った苦行系の治療法とは
正反対の治療法とその根拠を教えた。
とにかく皮膚へのダメージを避ける:皮膚炎起こしてるのにダメージ与えて治るわけがない、
海水浴や日光浴なんかで皮膚を痛めつけて治ると言うなら、
そう語る経験者のアトピーは所詮その程度の軽度。
朝型生活や規則正しい生活にこだわらない:痒みのピークが夜中に訪れるなら
眠れなくて当たり前。
寝不足のほうがずっと体に悪い。
といった具合に。
更に病気持ちの迷惑な同僚の話をした。
急な病欠が相次ぐ上に、出勤しててもミス連発し持病を理由に正当化する
見苦しいさまを話し、病気を堪えてでも働くなんて行為は
別に立派でもなんでもないことを教えた。
職場の迷惑を考え、まずは治療に専念するという湿疹男の考えは
決して間違ってはいないと励ましてやった。
彼はこういう人格批判に絡まないアドバイスは初めてだったのか、
目を輝かせて聞き入っていた。
それからちょくちょくメールで相談に乗ってやっていたら、
ある日、就職が決まったというメールとともに、
ほとんど回復した彼の手の写メが届いたのだった。