話はそんなに甘くはなかった。
お弁当は朝晩の残り物で作ると凄く怒られた。
70万の給料を貰ってる自覚がないと言われた。
元夫が夜8時過ぎに帰宅して晩御飯を食べてそれを洗ってから元夫の車で帰宅するという流れ。
必然的に夫を世話する時間や末っ子の世話をする時間が殆どなくなった。
帰りは自分の足で帰るからと拒んだが、俺の送迎も含めて仕事だと考えろと言われた。
正直そのとき彼の意図をよく理解していなかった。
夫は元夫との男女の関係を疑うようになった。
口には出さないけど、なんとなくそうなんだろうなという素振りを見せるようになった。
だから私はハッキリ仮に男女の関係を求められるような事があれば、
この仕事は辞めるからと言って彼を安心させた。
彼はしばらく微熱を繰り返していたが、その後小康状態に落ち着いた。
あるとき、元夫の友人に海外出張するので家具一式を預かって欲しいと頼まれ、
空き部屋に運び込まれたことがあった。
手伝った後、大汗を拭っていたらシャワー浴びてきたらと言われた。
ビクッとした。
それを見て彼は嘲笑した。
俺は君の旦那と違って弱ってる男から女奪い取るような卑怯なことはしないよと言った。
私はうな垂れた。
毎日朝の7時から夜の10時まで働いた。
必然的に家のことは義母と上の子たちに任せっきりになった。
あるとき突然義母から私の携帯に連絡が入った。
夫がリビングで首を吊っていると言って泣き喚いていた。
慌てて帰ると夫は既に亡くなっていた。
遺書を残してあった。
これ以上生きていても足手まといになるだけだから先に逝くことを許してほしい
保険金が入れば少しでも足しになるだろう
というような事が書いてあった
そして最後に元夫に向けてこう書き加えてあった
君の心の痛みはよく分かった
僕がこうする事で君の気持ちを少しは晴れるだろう
責任は全て僕にある
妻や子供たちを責めないでやってほしい
どうか僕の死に免じて家族のことを助けてやってほしい
そういう趣旨の事が書うてあった。
私は駆けつけた元夫にそれを見せた。
「今日付けで君を解雇する」
彼はそう静かにそう言った。
ギョッとして私は元夫の顔を見上げた。
夫は能面のように物言わぬ冷たい眼差しで私を見据えていた。
君がした事のあがないは君自身でやるべきだ
弱った俺を切り捨て彼と一緒に歩む決断をした以上、俺に君を守る義理はない
もう君に俺の子を扶養する生活力はないだろうから二人は俺が連れていくよ
名前も俺の姓に変えさせる
夜の仕事でも何でもして、残った家族を養いなさい
あとのことは弁護士とのやり取りになるだろうから、そっちを通して連絡してくれ
そう言って彼は去って行った。