どこでもドアが欲しかった

ワケあり物件の下見へ行った。住人「2階に住むつもり?やめといたほうがいいわ」俺(でも、お金ないからなあ…)結果…

time 2018/08/30

ワケあり物件の下見へ行った。住人「2階に住むつもり?やめといたほうがいいわ」俺(でも、お金ないからなあ…)結果…

頭良くなくて、デブなやつがいたとするでしょ。
そいつがもし、小学生で、大人が驚くほど歌が上手だったらどう育つと思う?

一つの例だけど。僕の場合、歌を拠り所にして、歌に人生賭けたいと思うほどの大人に育った。
高卒で、母と取引をして上京、上京に反対してる伯父を母にとめてもらって、実家の支援なしで突っ走ったよ。
高校時代からバイトして溜めた、三十万ぽっち握りしめてね。
不動産屋で実家に連絡とられると、伯父が出たら連れ戻したいなんて言われたりして。
それでもどうにか、事情を説明して母と連絡とってもらってさ。
で、実家の支援が受けられないから、どんな問題があってもいいから、安い部屋をって頼み込んで。
カプセルホテルで三週間くらいすごして、ようやくみつけたのが、すさまじいアパートだった。

場所は都庁が見えるとこ。渋谷区なんだけどね。ちょっと出たとこの通りからほんと都庁が見えるのね。
とりあえず、物件下見にいったときに、なんかものっすごい寒気したの。寒気。
当日はうららかな春の見本みたいな日だったのよ。その部屋日当たりもいいのよ。
つきそいの担当者はアパートの門の前で、鍵だけ渡してみてきてくれって始末。
郵便受け見ると、一階二階にそれぞれ三室あるはずなのに、埋まってるのは下だけ。
で、階段上る途中で、二階のどこかの部屋から、足音がきこえたような気がする。
とりあえず手近な扉からあけたら、なんか誰かいたような気がする。
部屋はいって即、となりの部屋との境となってる壁の四隅にね。
木製の板に見慣れない模様が刻まれてるようなのが、釘でうちつけられてるわけ。
で、全部の部屋みてまわっておりてきたら、丁度下の十人のくたびれたおばさまと鉢合わせ。
鍵もってる姿みて、担当者がいるのみて、挨拶もかわさないうちに。
「ひょっとして二階に住むの検討してるの?やめといたほうがいいわ。悪いこと言わないから」
なんてひそめもしない声で言って、ノシノシ歩いて行く。
「えーと、今のって二階に人が入ると、うるさくなるからってことですかね?」
「いえ、ご希望どおりに、問題がいろいろとあるかわりに家賃一万円のお部屋ですので」

「ちなみに、おすすめってこのみっつのうちのどれですか」
「正直、どれもおすすめできません」
「僕の希望からいうと…どれも一万円でおすすめってことですよね」
「はい。敷金礼金も頂きません。大家さんからお礼をちょっと頂くだけです」
「…死んだりしませんか?」
「死んだっていう話はないですね。一週間ともたずに出ていったという話はいくつもあります」
「大家さんに、一ヶ月住むことができたら、その後九千円にまけてもらえませんかって交渉ありですか?」
「…九千円、ですか」
「はい」
「かけあってみます」

翌日、九千円でもいいという返事が不動産屋の担当から入って、ここに決めた。

この部屋、色々、すごかった。まず、住むために荷物をいれる途中、息苦しくなった。
ただし、僕じゃない。何も知らない配送業者の人が胸や首を、ほぼ全員しきりに触ってた。
で、みんながみんな壁の変な札っぽいものを見る。
あと、きがたってるのか、差し入れの弁当と飲料をわたそうと肩を叩くと、電動マッサージ機かっていうほど震え上がった。

初日の夜、寝ようと思っていると、押入れのあたりから気配を感じる。音とかじゃない。
絶対あのむこうにいやがるぜ!っていう感覚なのね。すんごい怖い。
でも、バイトしながら、芸能事務所にトレーニング料支払ってっていう生活を思うと、超安物件にどうしても入る必要があった。
もうあんまりにも怖くて、おばけなんてないさを寝るまでずっと歌ってた。
それから毎日、とにかく部屋にいるときは歌った。もうとにかく歌った。もちろん、曲目はおばけなんてないさ。
で、日本酒常備。100円ショップのやすぐいのみでお供え。
それとコメを毎日少量づつ、100円ショップの安皿の上に載せた。

で、寝るのも楽じゃない中、現役プロも指導してるコーチの中で相性のよさそうな人を探す傍ら、飛び入りオーディション行脚。
あ、こういうのって、とにかくお願いしますって熱烈アピールして拝み倒すと受けさせてくれるのね。
情熱第一の職業だからさ。期間外でも受けさせてくれるのよ。ま、事務所の方針にもよるんだけどね。
ようやっと、おちつく先が決まった夜には、同居人(?)の分も豪勢な料理つくってふるまったな。
「これもあなたのおかげです。毎日が戦々恐々としてて培われた必死さが、いい事務所に所属できるきっかけとなりました。
今後共なにとぞごかごをお願いします。でもできれば、せめて就寝前から起床までは、どうかおとなしくしてください」
おもっきし祈った、誰もいない部屋の中で土下座もした。
奉納舞のかわりに奉納歌、やっぱり曲目はおばけなんてないさ。

いや、驚いたのはなにがってさ。ぴたっととまったんだよ。ピタッと。
あれ?ひょっとして?これってもしかして、効いた? ピコーンとひらめき。
お祀りすればあるいは!とおもって、ベニヤ板やらいろいろかいこんで、とりあえず箱っぽいもの完成。
神棚って油性マジックで書いて、その日からおそなえものはかかさずその箱の中にいれるようにした。
すると、嘘のように、昼間から感じる寒気もおさまった。

夏のある日、唐突に意識失って…

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引用:素敵な鬼女様
画像出典:写真AC

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