「あ? なんだ、おっさん? やっちまうぞ、おい?」
「まぁまぁまぁまぁまぁ、とりあえず静かにしよう。な? な? な?」
「なめんな、ごらぁ!」
(やられる!)と思った瞬間、動きが止まったのはチーマー風の男だった。
ゆっくりと倒れ込んでいく男の片腕を取った父はニコニコ笑顔のままで
「はーい、もう大丈夫ですよー。
次の駅で降ろしますので、証言ご協力お願いしまーす」
殴られた女性、チーマー風男が痴漢していたという証言者2人、
殴られた男の人、その駅で降りるから証言するという人3人ぐらい、
そして、私が次の駅で降りた。
「お父さん!」
「ええーっ!? ○美、おまえ、乗ってたのぉ~? あっちゃーまいったなぁ~」
その後、取り調べなどで2時間ぐらいして、
結局、私は父といっしょにタクシーで帰った。
タクシーの中、父は大まじめな顔をして
「お母さんにはお父さんが暴れたこと、絶対に内緒な、な?」
「…あの人になにしたの?」
「ん? いや、パンチなんて10cmからの至近距離でもいけるもんなんだよ。あははは」
その後、私は母に聞いた。
「お父さん、昔は怖かったのよぉー。
でもね、お付き合いする時、お母さんが条件出したの。
『下品な言葉遣いしないこと、怖い顔しないこと、暴力をふるわないこと』
お父さんがずっと約束守ってくれたから、お母さん結婚したのよ」
この事件以来、私は父が大好きになり、
父のような人と結婚しようと思うようになりました。