「あのですねー。もし私の内臓が二つ三つ足りなかったらどうするんですか?
考えたこともないでしょ?良いですか?結婚や恋愛について聞かれて
言葉を濁す人は、その場で言えないことや言いにくいことがあるんですよ。
または、あなたにはとても信頼できないから言えない、とか。
だいたい、不妊の人がそうそう自ら私は不妊だから子供は生めないんです、なんて
言いふらすわけがないでしょう。適当なことを言ってごまかすしかないんですよ。
男性は高熱で子供がつくれなくなることもあるんですよ。知ってます?
そうじゃなくても結婚の枠組みから外れた人は世の中にたくさんいるんです。
みんながみんな、何も考えずに独身謳歌しているわけじゃないんですよ。
ちなみに私は二十歳のときに、自分は結婚できない人間だと気付いて、
友達がどんどん結婚して子育てして、だんだんと疎遠になって親も老いて孤独を感じる頃、
いかに充実した人生を送れるようにするか考えました。
お子さんができたのはおめでたいことです。私も祝福します。
ただしあなたはあなたの幸福を存分に満喫して余計なことを人に言うのはやめましょう。
あなたが思う以上に世の中にはいろんな人がいるんですよ」
こういう内容を一気に言った。淡々とした口調じゃなくて、
それこそ普段の喋り口調と同じ調子だっただけに圧倒された。
A先輩も圧倒されてたみたいで「すみませんでした」と謝っていて、
それからは人に結婚や恋愛について余計なことを言わなくなった。
他の女性社員たちはその場にいなかったのでB先輩の発言のことは知らない。
ただ、A先輩が落ち着いてくれてよかったねと話している。