どこでもドアが欲しかった

嫁が浮気し、幼い娘を置いてトンズラ→娘は評判になるほど素晴らしく成長したが…

time 2016/11/26

嫁が浮気し、幼い娘を置いてトンズラ→娘は評判になるほど素晴らしく成長したが…

十数年前に嫁が浮気、当時5歳の娘と離婚届を置いて浮気相手と逃げた。 
八方手を尽くした挙句、浮気相手と海外にトンズラした事が分かった。 
娘もなんとなく察したようで、元嫁に対する未練や文句を一切言わず、俺と俺両親の生活を覚悟したのもこの時。
夜中に布団の中で声を押し殺して泣いてる姿を見何度か見ているが、自責の念で気が狂いそうだった。

元嫁親からは当初養育費という名目の慰謝料を貰っていたが、娘が小学校入学と同時に辞退。
元嫁に関わる一切と絶縁する覚悟をしたから。
娘と写っている以外の写真も全て焼却した。

俺は仕事を辞め、自営を始めた。
無論娘との時間を増やす為。

片親の子だから学校でいじめられないだろうか、心に影を持った子にならないだろうか、心配は尽きなかった。
でも親が考える程子は弱くなかったんだ。
娘は明るくスクスクと育ってくれた。
友達にも恵まれたと思うが、1年、2年の学校の先生との出会いが大きかったと思う。
娘はとにかく思いやりのある優しい子に育ってくれたんだ。
俺の小学生の時にはあり得ない話だが、月に一度か二度位は学校の色々な友達からお礼の手紙が届くほど。
内容は全てムスメに助けられて感謝している、みたいなものばかり。
後で思うと、元嫁にされた史上最悪の仕打ちの裏返しだったのかもしれない。
人にとことん優しくする事で娘は自分も幸せになれると言っていた。
この時まだ10歳。

小学校卒業する頃、娘に夢を宣言された。
看護師になる!と、俺と俺両親の前で声高らかに宣言。
娘らしいと思ったよ。
中学に入ると夢へ向けて勉強するのと同時に、スポーツ係の部活にも打ち込み始めた。
朝練や夜遅くなる事も多かったが、俺と両親とでとことんバックアップ。
この頃の俺たち家族の夢はイコール娘の夢だった。

毎日深夜まで勉強したおかげで、娘は県下一の進学校に入学。
そして相変わらずの勉強と部活の日々。
部活の方は県で一番になる事もあり、寧ろ勉強よりもこちらの方で地元では徐々に有名になっていった。
が、高三になる前に退部。
周りの説得虚しく、彼女はあっさり辞めてしまったんだ。
理由は、学力が思いの外上がっていなかったから。
娘の中では看護師になるのが全てに優先していた。

高三の秋。
寒さが日1日と厳しくなり、この年初めて出したコタツの中で家族四人温まりながら夕食後のテレビを見ていた時の事。
娘がふと呟いた。
「看護師になって、お爺ちゃんお婆ちゃん、お父さんを一生面倒見てあげるからね」
思わず泣きそうになったが、ギリギリのところで堪えた。
と思ったら、お婆ちゃんが泣き出した。
私たちの事はいいから、将来は結婚して旦那さんと幸せな家庭を築きなさい、と言ったんだけど、頑なに拒否する娘。
結婚なんか絶対にしない、と言い切った娘の顔を見て、俺は複雑な気持ちになった。
そして俺のそんな表情を察知して娘が言った言葉。
「別にお母さんの事があったからじゃないよ。単に育ててくれたお礼だよ」
階段を上って行く娘の後ろ姿を見ながら、もう涙を止めることは出来なかった。

娘が「お母さん」という言葉を口にしたのは実に10年ぶり。
母親のいない家庭で暮らしていくと決めた日以来。
いや、当時は娘はまだ元嫁の事をママと呼んでいたから、正確には「お母さん」という単語はこの時が初めてだった。

この時の俺たちは、もう元嫁に対する怒りや憎しみなんかは無くなっていた。
スクスクと育つ娘を見ているだけで心が穏やかになっていったのかもしれない。
逆にこんなに優しい娘を産んでくれたことに感謝する事も一度や二度位はあったと思う。

娘は猛勉強の末、何と医学部に合格してしまった。
しかもかなり偏差値の高い国立大学の。
娘の中で絶対的な夢であった看護師への憧れは、いつしか医者にまで昇華していたんだ。
「まさか受かるとは思わなかった」
と謙遜していたが、確かに当時の成績ではほぼ奇跡に近かった。

そして娘は再び部活に入り、忙しい毎日を送ることになる。
通学に一時間以上かかるので、本意ではないが一人暮らしを進めたのだが、これも頑なに断られた。
そればかりか、就職しても一生この家から出て行かないと言っていた。
それをきいてまた泣くお婆ちゃん・・・

大学二年の時に娘が全国で3位に入る好成績を残した瞬間から周りが変化しだした。
地元のテレビ曲や新聞社からの取材。
地元で一躍有名人になってしまったんだ。
現金なもので、殆ど話した事もない級友達が、さも昔からの親友であるかのように近付いてきたり、中学生の頃娘と付き合っていた等の噂話が一人歩きするようになり、俺としては歯がゆい思いをしていたのだが、娘の
「放っておけばいいじゃん、悪口言われてるわけでもないし」
という言葉で収めていた。
実際、顔も覚えていない昔のクラスメートが家に訪ねてきても、娘は嫌な顔一つしていなかった。
この時点で俺は精神年齢で追い越されていたのかもしれない・・・・・

医学部って凄く大変なんだよな。
専門過程?とかに入る前なのに勉強の量が凄くてさ。
高校の時に中途半端になっていたから部活は最後までやり遂げるって言ってたし、兎に角受験勉強時代みたいに忙しくなっていった。
もうお爺ちゃんお婆ちゃんも年だから、あんま臨機応変に出来なくて。
寧ろ娘の世話になることの方が多くなっていったような気がする。
それでも本当に仲の良い四人家族だった。
娘のおかげで楽しい生活だったんだ。

だけどそんなある日、悪夢が突然起こってしまったんだ…

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