どこでもドアが欲しかった

義実家は絵にかいたような上流階級で、貧しい家で育った私はあまり馴染めなかった→ある日…

time 2016/11/28

義実家は絵にかいたような上流階級で、貧しい家で育った私はあまり馴染めなかった→ある日…

私は慌てて言った。
「おじちゃんがトイレ探してるなんて、知らんかってん」
「なんで?」
「聞けへんかったから」弟が言った。
「聞いても教えてくれへんの? 意地悪されてるん?」
「それは違う!」
「じゃあ、なんで?」

無言になった私と弟の代わりに、夫が言った。
「あのな、難しい事情があるんや。だから今は向こうに行ってなさい」
息子は言った。
「困ってる人をほっとく事情って、何なん?」
今度は誰も何も答えられなかった。

突然、義父が私と弟に頭をさげた
「申し訳なかった。今まで、どうやら私たちの方で壁を作ってきたのかもしれない」

義父に頭を下げられたのは、それが初めてだった。
無口で、なのに気づかい上手な義父で、
謝られるようなことなんて、一度もされたことがなかった。

恐縮のあまり、涙が出た。
「頭をあげてください」
でも、義父は頭をあげてくれない。
義母までその隣りで、手をついて頭を下げてきた。
異様な雰囲気に、下の息子が泣きはじめた。
私は何も言えなかった。

結局その修羅場は夫が収拾をつけてくれて、
しかもそれを切っ掛けに、私と義父母は胸を開いた話ができるようになり、
自然と、私の実家と義実家も親密になっていき、
全てが丸く収まってしまった。

次の五月の連休、実両親と義両親の四人だけで旅行に行くという話を聞いて
思い出した十年前の修羅場でした。

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