しばらく何かを考えていた父が、家の奥に行ってからアルバムを持って来て、俺に見せた。
そのアルバムの中には、俺の写真があった。
そして、俺の隣にはAがいた。
どうやら旅行の写真のようだが、写真に写る場所(有名な温泉地)なんて行ったことない。
なんだコレって思いながらページをめくっていったら、結婚式の写真まであった。
しつこいようだが、俺は本当に結婚なんてした記憶がない。
なのに、その写真の中の俺は、Aと結婚してた。
アルバムを見てたら父が説明してきた。
1年くらい前に、俺がAを連れて家に来た。
そして、結婚することを告げたらしい 。
その時から1年前に、俺は結婚したとか。
ただ、その時の俺は仕事が凄く忙しかったから、しばらくAは俺の実家で過ごすことになったらしい。
それは、俺が両親に頭を下げて言ったとか。
Aも涙ながらに言ってきた。
会社の友人から俺を紹介され、俺と食事に行き、付き合い、結婚した。
自分の両親は他界していて、『俺が一生お前の家族になる』とプロポーズしてくれたと。
何度も父とAから『本当に覚えていないのか』と言われた。
でも俺には、まったく覚えがなかった。
1年前と言えば、確かに仕事が凄まじく忙しかった。
会社のプロジェクトの企画を任され、ほぼ徹夜続きの毎日だった。
だけど、だからこそ、そんな時期に結婚なんて出来るはずがなかった。
でも、結婚式の写真には、俺の職場の上司や同僚、地元の友達まで映ってた。
ドッキリにしては写真の完成度が高いし、大掛かり過ぎる。
何より、堅物だった俺の父がこんなリアルな演技なんて出来るはずもない。
なんか急に怖くなってきた。
両親が両親じゃないように感じてきた。
そして俺が俺じゃないように感じてきた。
俺は実家を急いで飛び出し、自分のアパートに戻った。
だけど両親は俺のアパートを知っているから、最低限の荷物を持って近くのビジネスホテルに逃げ込んだ。
その間も俺の携帯は鳴りっぱなしだった。
それから俺は必死に自分の頭の中を整理してみた。
だけどやっぱり結婚した記憶なんてない 。
だから俺は確かめてみた。
地元の友達に電話した。
『俺は結婚したのか』と聞くと、即答で『何バカなこと言ってるんだ。当たり前だろ』と返された。
次に仲が良かった仕事場の同僚に電話をしてみた。