もうそのあとは怖くてしかたありませんでした。
しかし自分がやらかしてしまったせいでしょうか、その後ベルが鳴る鳴る…。
ひっきりなしにエリーゼのためにがガンガン流れます。
そのたびにめんどくさそうに受話器をガチャギリする上級医。
しかしベルはひどくなる一方でした。
♪ミレミシレドラ~…、のメロディーが流れるのですが、途中くらいからこちらが切らなくても勝手に途中で切れるのです。
ミレミシレドミレミシレド、みたいな感じで。最後はミレミシミレミシミレミレミレ…みたいになってましたね。
明らかにこちらをせかしていました。
私と同じく入りたての看護師さんもいたのですが、彼女は完全に腰が抜けて泣きながら座り込んでいたし。
そして、「おい!うっせーんだよ!!さっさと行ってやれやゴルァ!!!!」と空気の読めない酔っ払い共。
中にはオラオラ言いながら隔離室のドアを蹴るDQNまでいて、ちょっとしたカオスでした。
そんな中一人不機嫌オーラを立てていたのは師長さんでした。
とうとうしびれを切らした彼女はツカツカと受話器のところに行ってさっと取ると一言、
「 黙 っ て さ っ さ と 死 ね ! ! ! ! ! 」
救急中にしっかりと声が響き、ぱたりと途絶えたナースコール。
理解したのかしないのか知りませんが、空気をやっと読んでくれた酔っ払い達。
くるりと振り返った師長さんは、それはそれは、頼もしいとかじゃなくて純粋に恐ろしかったです。
「 仕 事 し ろ ! 」
その後は馬車馬のように働きましたとも。
酔っ払いはいつも居座ってしまって返すのに苦労するのですが、皆様本当に理解が早かった。
腰を抜かしていた看護師さんはその後「ICUで死ぬ間際の人が氷をポリポリ食べていてその音が耳から離れない」と言い残してやめて行きましたが、師長さんいわく軟弱ものだからだそうです。
女社会、子供を5人育て上げ、なおかつ893やDQNのやってくる救急外来をあえて選ぶ、そんな猛者。今でも心底恐ろしいです。
ちなみに、その時も蘇生したのではないかとも考えましたが、やはり何度考えても答えはNOでした。
挿管こそしませんでしたが、三次救急病院の蘇生メニューで全くのAsys.(心臓が完全に止まった状態)でしたからね…
特に低体温などの特殊な状況だったわけでもありませんし。
医学的常識を超えて蘇生してくるケースを全く否定するわけではありませんが、非常に考えにくいです。
ちなみに隔離室はかなり広めの個室です。
インフルエンザの時期、5組のインフルエンザの子供+保護者を収容できる広さです。
その中央に柵付きのベッドを一台だけ、ぽつんと置いた状態。
ナースコールは一台のみで壁に固定です。
生きている人を寝かせるときには延長ケーブルでボタンを持たせますが、
当然当時は必要ないのでケーブルは収納していました。
鍵はあくまで外からの侵入を防ぐためなので、中からはつまみ一つで簡単に開きます。
本当に生き返って柵をはずして壁まで歩いてナースコールを鳴らすぐらい元気だったら、
せめてカーテンを開けて助けを呼ぶくらいしてほしかったかなあ。
あと、救急外来のナースコールは電話と違い、かけることはできても切ることはできません。
こっちから切らない限り、新しくかけなおすことはできないはず。
なのでもっとも科学的に説明がつくのは「故障」なんでしょうね。
なにはともあれ、自分には色々と洒落にならなかったです。