「あの部屋にさと子さんは倒れとったんじゃ。」
と西にある和室の方を指差すんです。
話を聞いてみると、この家にはお婆さんが10年近く一人で暮らしていて、1年ほど前に脳卒中で倒れ、新聞がたまっているのでおかしいと気がついた近所の人によって発見されたのだそうです。
「飼っていた小さな犬も、そばで一緒にタヒんどったのよ。」
と、お爺さんが話すのを聞きながら、夫の顔を見ると血の気を失って蒼白になっているのがわかりました。
夫は幽霊とかおばけが大の苦手で、ホラー映画なんて絶対に見られない人なんです。
おじいさんにお引取りいただき改めて家の中に入ってみると、亡くなったお婆さんのチェストや鏡台があちこちに残されています。
肌着やスカーフ、化粧道具まであって、その生々しさにホラーには強いわたしもさすがにちょっと怖くなってきてしまいました。
マンションに帰った後、夫は家を全部壊して立て直したいと言い出したのですが、予算いっぱいで中古住宅のローンを組んでしまったので、それはとても無理だなんです。
もはや私達はどうしてもあの家に住むしかないのですが、お婆さんが倒れて愛犬とタヒんでいたと言う西の和室になどとても一人ではいられそうにありません。
どうしたらいいんだろうと、悩んでいます。
実は先日買った家に行って掃除をしていたら、2重になっている鏡台の引き出しから、ちょっとしたお金が残っている貯金通帳やパールのネックレスや指輪が見つかったんです。
本物かどうかは分かりませんが。
不動産屋さんに話して遠くに住んでいるという息子さんに送ってもらうようにしましたが、正直言ってできるものなら、誰かに買ったばかりの家を売ってしまいたい気持ちでいっぱいです。