私の会社は社員食堂がない。
郊外の辺鄙な場所にあるので、周りの飲食店はほとんどない。
(老婆がやってる寂れた汚い喫茶店が1軒だけ)
コンビニもスーパーも遠いので、みんなランチは地元のコンビニで買うなり弁当持参してる。
私も電車に乗る前にコンビニでパンを買ったりしてた。
SNSで都会で働く友達がお洒落なランチを食べているのを見て羨ましく思っていた。
そんなある日、課長(既婚)が毎日弁当を捨てているのに気付いた。
「奥さんメシマズなのかな?」
と思っていたけど、奥さんが気の毒だったので、ある日勇気を出して課長に聞いてみた。
奥さんはメシマズじゃなかった。
むしろとってもヘルシーで見た目も可愛いお弁当だった。
そして奥さんは主婦向けの雑誌にたまに出てる読者モデルで、料理上手な美人だと知った。
課長がお弁当を捨ててる理由は、口に会わないから。
野菜多めで炭水化物少なめ、味は薄味。
見た目が男性用にしてはファンシーで休憩室で蓋を開けられない。
「食べる?」
と言われたので食べてみたら、確かに塩分は控え目で優しい味付けだったけど、手が込んでいてヘルシーで、女子には最高のお弁当だった。
その日から奥さんには内緒で、今まで捨てていた課長のお弁当は私がいただくことになった。
課長は近所に唯一あるボロボロの寂れた喫茶店のランチが大好き。
焼きそば定食・焼きうどん定食・ラーメン定食・唐揚げ定食・海老フライ定食、メニューはだいたいこんな感じで、がっつり炭水化物系、揚げ物系も全部冷凍食品。
味付けも濃くて量だけは無駄に多く、揚げ物はベッチャベチャ。
他に競合店がないのでそんなランチを¥980で提供してるのに課長の口には合うらしく、毎日そこの喫茶店に通って食べてた。
奨学金の返済でカツカツの私にとって、無償で毎日提供されるお弁当は本当に有難かった。
お礼がしたかったけど、あくまで奥さんには内緒なのでそれもできず、お礼は一週間に1箱、課長が吸っているタバコを1箱買って渡すことで話がついた。
ちなみに喫煙は奥さんには内緒らしい。
お弁当の内容は、コース料理が詰まった感じで、毎朝よくこんなの作るなと感動するレベルだった。
和食・中華・洋食が順番に詰められていた。
とにかくヘルシーで野菜が多いし、ハンバーグやおにぎりは食べ易く小さな1口サイズになってるし、ハンバーグも豆腐が入ってたりトンカツは揚げてなくて焼いてあって油っこさが全くなかったり、サラダや前菜も見た目にとにかく凝っていたり、カラフルな素麺で作った巻き寿司なんかもあった。
サーモスの小さめのマグが毎日添えられていて、秋~春は野菜たっぷりの温かい味噌汁やミネストローネ、夏は冷性スープだったり、宮崎の冷汁が入っていて、深めのタッパに白むすびが入っていたのも何度か登場した。
洋食も中華も美味しかったけど、和食の日に毎日入ってた料亭みたいな味付けの煮物と、洋食の日に添えられているマリネがクソ美味かったのが忘れられない。
そんな課長が3月末で異動になった。
課長の最終日、駅前の居酒屋で送別会をして居酒屋を出ると、目の前に課長の車があり、奥さんが下りてきた。
「主人が大変お世話になり、ありがとうございました」
と上司(支店長)や他の社員達に挨拶したらしい超絶美人の奥さん。
するとかなり酔っ払った私の同期のA男が…