それまで虫を殺したことはあっても、犬や猫のようなはっきりとした「動物」を死なせたことは無かったため、俺は非常に動揺していた。
そのとき、間の悪いことに死んでしまった犬の飼い主(先程家から出ようと玄関を開けたおばさん)が、飛び出していった愛犬を追いかけて俺の家にやってきて、死んだ犬を見つけるなり半狂乱になって俺達を罵倒してきた。
騒ぎを聞いて父も家から出てきて、母と二人でおばさんを宥めようとしていたが、おばさんは聞く耳持たず、
「責任取れ」とか「訴える」とか喚いていた。
そうするうちにおばさんは犬を殺したのが金属バットを持っている俺だと気付いたらしく、俺一人に向かって怒鳴りつけてきた。
俺は、ついさっき犬を殺してしまったことの罪悪感と、そのおばさんのあまりの剣幕に大声で
「ごめんなさい」
と叫びながら泣き出してしまった。
で、俺が泣き出した途端、先程までおばさんを宥めようと頭を下げていた父が、突然右手でおばさんの胸倉を掴み、左手で俺の左腕を掴んで言った。
「この傷を見ろ! テメエのところのバカ犬が噛み付いて出来た傷だ! 息子の腕に消えない傷跡をつけておいて何様のつもりだ!」
普段温厚な父が怒鳴りつけるシーンを見て泣いていた俺含め家族一同ポカーン。
しかし父の怒りはまだ収まらなかったらしく、
「この上息子の心まで傷つけるようならテメエら一家皆殺しにすんぞ!」
それを聞いておばさん&俺達家族一同ガクブル。今度は必死で父を宥めることに(w
結局おばさんの旦那さんが来て、話し合いで解決したが、父があんなに怒ったのを見たのは後にも先にもこれっきりだった。後で聞いたら、
「お前が泣いてるのを見たら頭に血が上って我を忘れてしまった」
とのこと。
俺が姉の泣いている姿を見て切れてしまったように、父も俺の泣いている姿を見て切れてしまったらしい。
やっぱり親子なんだなあ、と実感した俺でした。