普段出ないような大声で、
「やめろ、息子! 話はB先生から聞いて知っている! おまえは全然悪くない!
だからその手を離しなさい! おまえが悪くないことは、まわりにいた人間みんなが知ってるから!」
と叫んだ。
息子は顔を真っ赤にしていたが、手を離した。
C先生は、
「あっ、事情があったのですね!」
とすぐ理解してくれた。
A母はしばらく目を泳がせていたが、Aの手をひっつかんで何も言わずに消えた。
C先生は、いつもA母子はトラブルばかり起こしているんだと説明してくれた。
我が家はその学校に来たばかりで何も知らなかったのだが、A母子はその近辺の鼻つまみで、特にAの粗暴さは常識はずれだったため、誰も手出しができなかった。
いつもクラスの別の子に「バカ」という言葉でからかわれていた息子は、別のクラスのAのことは全然知らなかったのだが、我慢できなくなってAのことをぶちのめしたのだという。
周囲の子たちがそのいじめの現場にいても手出しができなかったのは、普段のAの凶暴ぶりを知っていたから怖くてどうしようもなかったらしい。
転校してきたばかりのヒョロヒョロな大人しい子が、二度もAをやっつけたということで息子は周りに一目置かれるようになった。
A母に恨み骨髄だった他の母親たちからも、感謝された。
Aはそれからも時々トラブルを起こしていたけれど、うちの息子にだけは手出しはしなかった。
ただ、息子はあとでこっそり
「Aがそんなに危ないやつだと知ってたら絶対にあんなことはしなかった。
俺はクラスで毎日バカと言われて限界だったんだ。
そこにバカという声が聞こえたので、もう言われているのが自分じゃなくても、
言っているのが知らない子でも、とにかく殴るのが我慢できなかっただけなんだ」
と教えてくれた。