彼はカナダではなくハワイに娘を連れていった。
娘からスカイプでハワイにいまーす!と言われて
こっちの家族はみな驚いた。
元夫のカナダでの仕事は事前に片付いてしまったので
急遽ハワイにしたと言っていたけど、
本当は最初から仕組んでいたんじゃないかと思う。
服などはみな向こうで調達したらしい。
今にして思うとその辺りで
実子と連れ子との間にじわじわと格差が生じつつあった。
あるとき夫の別宅マンションに泊まりでいって
帰ってきた時の娘達の興奮ぶりがその印象を決定付けた。
お台場の夜景が見えるとか、
○○という芸能人にエレベーターで会ったとか、
大学に行ったらそこを使ってもいいとか、
他の三人の心情を考えずに二人の娘が話すのを聞きながら
私はどう対処していけば良いのか頭を抱えていた。
それから随分経ったあるとき、
TVで遺書の正しい書き方という番組を
リビングで家族で見た。
ホワイトを使ってはいけないとか
訂正印が必要とか何とか色々とやっているのを見ながら
夫が、うちもちゃんとしておかないと揉めると困るなと
何気ない感じでいった。
すると実長女が私たちは遺産放棄で良いと言った。
私たちは元父から遺産貰うから要らないよねと
実次女を見ながらいうと実次女も応じるように頷いた。
連れ子は複雑そうな顔をしていたが
私は少しホッとしていた。
夫の元嫁が養育している長男も頭数に入れると
権利を持つ子供は6人。
家のローンを払い終わったとしても
6分割では殆ど何も残してやれないからだ。
たぶん夫もそう思っていたんじゃないかと思う。
しかし甘かった。
しばらくして元夫の車で帰ってきた娘たちは
神妙な顔をして私たちの寝室に来た。
やっぱり遺産放棄はしないからと娘は言った。
何かあったの?と私は聞いた。
お前たちを連れていったからには
お母さんには財産を公平に分与する責任がある
そうでなければお前たちを送り出した
俺の気持ちが報われないと言われたらしい。
自分の認識の甘さを恥じた。
私と夫は、大丈夫ちゃんと公平にするから
心配しないでと笑って言った。
しかし娘たちはまだ複雑そうな顔をして立っていた。
まだ何かあるのかと私は聞いた。