うちは玄関を入って廊下のすぐ右のドアが俺の部屋になっていて、 その奥の右が寝室、つきあたりがリビングと和室になっている。
ちなみに廊下の左側は洗面所&風呂場と、その奥が俺の立てこもっているトイレだ。
寝室から出てきた泥棒が次に通るのは俺の部屋の前だった。
俺はなぜか自分の部屋は素通りして玄関から出ていくと思ったんだが、 落ち着いて考えてみれば考えてみたら泥棒にとってはそこが俺の部屋なんて事は知る由もなく、 当然いくつかある部屋のうちの一つだから入るわな。
足音は俺の部屋の方へとミシミシと消えていった。
その時、俺の頭脳は自分の部屋で何が盗まれそうか瞬時にはじき出していた。
バイト代で頑張って買ったノートパソコン(VAIO)・・・
あれを取られたら、中身のあんなファイルやこんなファイルもバレちまう!
さらに引き籠りがちの俺に取って、パソコンはツールであり遊具であり人生そのものだ。
すでに両親の寝室の時にかなり葛藤していた俺は、 この時、迷いが吹っ切れたかのようにトイレのドアを勢いよく開けて廊下に出ていた。
トイレから俺の部屋までは廊下で3~4歩くらいの位置だ。
ドアを開けた音にびっくり反応した泥棒は、 俺の部屋に入って背を向けた体勢からくるりとこちらを振り返った。
その瞬間には、俺はもう部屋の前に立っていた。
ギョッとした表情で一瞬かたまる泥棒。
その姿が俺の目に飛び込んでくる。
頭の中の想像では白と黒のシマシマの服を着て、 風呂敷を背負って泥棒ヒゲを生やしてるイメージだったんだが、 実際の泥棒は全然違っていた。
なんていうか、なんかの配達員というか、メーターの検針員というか、 なんかそんな感じの作業服を着ていて、同じ色の帽子をかぶっていた。
これも落ち着いて考えてみればなるほどと思う事なんだが、 この格好なら玄関から「どうも~お邪魔しましたー」とか言いながら出てくれば マンションの住人に見られても怪しまれることもないだろう。
後から泥棒だと分かっても、帽子をかぶってれば身長や顔も分かりづらい。
歩きやすく音がしにくい黒ずんだスニーカーも妙に服装と合っている。
まぁそんな事はどうでもよくて、この状況だ。
泥棒も誰もいないと思って入った家に人がいた訳だから、 さぞかし驚いたに違いない。
しかしこっちだって、さっきまでトイレでガクブルしてたのに いきなり無策のまま飛び出してしまった訳だ。
固まったまま見つめ合う二人。
たぶん一秒くらいだと思うけど。
ちなみに泥棒は、色黒で痩せ型の40~50のオッサンだった。
顔はなんかちょっといかつい。ってか怖い。
勝てなさそうだ。
無限にも感じられるようなほんの一瞬の硬直の後、 俺は半ば無意識のうちに自分の部屋のドアを勢いよく閉めていた。
今思い出してみても、これは単に何か泥棒のオッサンが怖くなって、 物理的な距離を取りたくてやっただけのような気がしてならない。
その瞬間の俺が、そこまで計算高く動いていたとはどうしても思えない。
けど、これは結果的にはベストな状況を作り出した。